前田篤哉といえば、切れ味鋭いまくり差し、差し。デビュー25走目に6コース差しで初勝利をあげ、その2カ月後には6コースまくり差しで2勝目。その後は順調に勝ち星を重ねていくようになったが、その決まり手はほとんどがまくり差しか差しだった。デビュー2年目の後半には早くもA2級に昇級しており、その原動力が展開を突く巧みさ。豪快よりも巧腕というイメージが強い。ルーキー屈指のテクニシャンと言える。
　近況はまくりでの1着も増えつつはあり、戦法の幅が広がりつつある。それがまくり差しの俊敏さにさらに磨きをかけ、成績をさらに上昇させた。デビュー4年目に入り、ついに念願の初優勝。前田らしいまくり差しでの一撃だった。その次節も連続優勝を飾り、これが決め手となって2020年の最優秀新人を獲得。名実ともに、次代の看板レーサー候補に名乗りをあげている。2021年、新人王の真価を問われる1年を、持ち前のハンドルワークで戦い抜く。

令和2年の最優秀新人選手に選ばれた前田篤哉は、賞金獲得額（2402万円）、勝率（6.23）がともに1位。優勝も2回のトップタイで誉れを手にした。
「うれしいです。調整力を含め実力をつけ、今まで以上に仕事をしたい」と決意を語った。
すし職人の父と看護士の母の間に生まれ育った前田篤哉。父からは「お前はボートだ」と言われ意識していたが、高校の同級生吉田裕平がレーサーになったのを刺激としプロを目指すようになった。
3回目で入所した養成所ではリーグ戦初戦で落水し足を肉離れしてしまう。いきなりつまずいたのだ。ギプスをはめてできることは訓練補助しかなかった。悲運ともいえたが、これが功を奏することになる。
「補助しているからこそ見えることもありました。人のクセを観察し覚えました」と、逆境を力に変えたのである。
両親から学んだ「素直に人の話に耳を傾けること」をはじめ、「観察すること」や「覚えること」は前田篤哉の宝もの。成長の糧である。