大阪にイキのいい新人がいる。デビューしてまもなく、その噂はファンにも広まった。初勝利はデビュー節。水神祭までに１年以上を要することも珍しくない昨今、その早さは誰もが舌を巻くものだった。初の予選突破はデビュー3カ月、初の優出はデビュー9カ月とこれまた早い。層の厚い大阪支部に、またもスターが現れたのだとおおいに期待が高まったものだ。
　その後、フライング禍もあってちょっとした足踏みはあったが、事故率の足枷が外れるや再度浮上。右肩上がりに成績を伸ばしていった。期待の逸材は走るごとに技量に磨きをかけ、かねてから定評のあった攻撃力は鋭さを増していった。2020年にはついに初のＡ１級昇級。トップルーキーにも選出された。
　この2020年は、上田龍星の名をさらに広く知らしめる年になったと言えるだろう。まずは何と言ってもSG初出場となったボートレースオールスターだ。地元住之江で開催されたこのSG、強豪先輩たちに胸を借りる立場ではあったが、3走目に見事SG初勝利。序盤の大敗が響いて予選突破はならなかったが、外枠からも3着に絡むなど、印象的な走りで全国のファンにアピールしてみせた。
　さらに輝いたのは、プレミアムG1ヤングダービーだ。予選は初戦から3連勝と圧倒的な強さで、オール3連対の予選トップ通過。準優勝戦も危なげなく逃げ切って、優勝戦で１号艇に乗っている。その優勝戦こそ3着と敗れ、苦杯を舐める結果となってしまったが、確かな躍進を感じさせる戦いを見せたこのシリーズは、さらに上田龍星の名前を大きなものにする一戦だったと言える。
　2021年に入ってからも、G1近畿地区選手権で優出するなど、その勢いは継続している。G1出場はさらに増えるはずで、地元オールスターに続くSG出場も果たしたいところ。限りない躍進を魅せて、真のトップグループに食い込みたい１年となる。

スポーツの世界では常識だが、バランス感覚は小学生時代にある程度固まるという。パワーよりも感覚や体幹を重んじる指導者が多い理由である。
上田龍星は小学校から高校まで自転車競技「BMX」をしていた。
「BMX」はバイシクルモトクロスの略で、1970年代アメリカの子供たちが20インチ自転車でモトクロスを真似たことが起源とされる競技。レースは大小さまざまな起伏がある400ｍ程のダートコースで順位を激しく競う。そのさまから「自転車の格闘技」と呼ぶ者もいる。
不安定で変化に富んだ水上を滑走するボートの操縦は極めて難しいが、上田龍星は乗りこなす体感をこの時代に獲得したといってもいいだろう。
そもそもボートレースをまったく知らなかったが、BMX仲間からすすめられこの世界へ転身した上田龍星。
「頑張って活躍すれば得られるものも多い。それがモチベーションにつながるし、何よりボートに乗っているのが楽しいです。自分にとっては天職…」と言ってはばからない。
「行くときは行きます！」と言うこともあるように、徹底して速さ追求する若手の象徴は、レース道中の追い上げもすさまじい。初優勝を飾った下関も「抜き」で強豪ベテランを交わしている。
そして、「展示タイム」や「レースタイム」を出すことでも知られている。近況では下関で1分44秒9の驚異的な時計を叩きだすなど、スピードとパワーを出し切る姿に共感が集まっている。
2020年のびわこヤングダービーで、ポールポジションをゲットしながら磯部誠に差され敗れた悔しさは胸にしまってある。これを糧に2021年は間違いなく躍進することだろう。