デビューからしばらくはなかなか成績が残せない、臥薪嘗胆の時期を送った。114期の同期生たちは次々と頭角をあらわしていき、早くもG1覇者まであらわれた。それを横目で見ながら、焦る日々もあったことだろう。しかしくさらず努力を続けることで、着々と成績は上がっていった。そして2019年前期にA2級昇級。ここから井上の成長はさらに加速していく。
その原動力ともなったのが、思い切りのいいまくり、まくり差しだ。デビュー2走目であげた初勝利は6コースまくりだったが、その後まくり1着はほとんど見られなくなる。それがデビュー4年を迎えたころから急増し、特に4カドからの一撃は爽快の一語だった。近況はまくり差しも増え、自在性が増したことで攻め筋に幅が出た。それが20年前期、初めてのA1級へと井上をのし上げることとなった。19年後半はややリズムが悪い時期もあったが、その巻き返しが期待される2020年である。

昨年8月、住之江で大波乱が起こり全国をニュースが駆け回った。大阪ダービー優勝戦で井上一輝が勝ったのだ。それもトップレーサーを相手に…。
湯川浩司、石野貴之、太田和美のSGウイナーをはじめ、岡村仁、上條暢嵩を向こうに回し6コースから差し一撃。3連単94,800円の大波乱を巻き起こした。レース後、「妄想していた通りの展開となりました…。うれしいです」と男泣きしたのが語り草になっている。
大物食いを果たしたことで自信がついたのは明らか。2019年5月～10月までの勝率を6.27とし、2020年前期初のA1昇格を果たしたのだ。近況、予選突破は当たり前になりつつある。
「どのコースも得意になって、1着を目指して走ります！」と元気よく語る井上だが、現状の得意戦法は3コースまくり。4コースや5コースではまくり差しも繰り出してくるが、基本的に握って攻めるスタイルは波乱を引き起こすだけに魅力に満ちている。『井上一輝の全速戦』は住之江のファンの認識から全国のファンの知識へと変貌した。井上のスピードがボートレースに新時代を告げるのかもしれない。